
今回は日本で飛行機(旅客機)のパイロットを目指す方法や、身体検査基準など前後編に分けて詳しく解説していきます。まず前半では、パイロットを目指す主なルートと必要な資格、そして免許取得後のキャリアについてお伝えします。
エアラインパイロットになる主な4つのルート
日本でエアラインパイロットを目指す主なルートは、次の4つです。
② 航空大学校
③ 大学・民間のパイロット養成課程
④ 防衛省などで操縦経験を積んで民間航空会社へ進むルート
国土交通省の資料(令和5年1月1日時点)では、主要航空会社のパイロット7,091人の出身構成は次のとおりです。
それぞれ特徴が異なります。まずは全体像を比べてみましょう。
出身構成 37.8%
パイロットとしての経験がない状態で航空会社に入社し、入社後に一から訓練を受けてパイロットを目指すルートです。採用条件や訓練内容は航空会社ごとに異なり、入社後は会社の訓練体系に沿って資格取得を目指します。主要航空会社のパイロットの中では、最も大きな割合(37.8%)を占めています。
訓練にかかる費用は原則として会社が負担し、社員として給料をもらいながら訓練に臨める点が魅力です。一方で、採用人数が限られるため倍率は高くなる傾向があります。年齢などの応募条件も会社ごとに異なるので、募集要項の確認が欠かせません。
出身構成 34.5%
国が設立した、日本で唯一の公的なパイロット養成機関(現在は独立行政法人)です。標準的な課程は約2年間で、座学と飛行訓練を行い、資格を取得したうえで、航空会社への就職を目指します(現在は訓練の待機期間などで、実際の期間がこれより長くなる場合があります)。主要航空会社のパイロットの34.5%が航空大学校出身で、日本のエアラインパイロット養成において大きな役割を担っています。
国の支援や航空会社の協力に支えられているため、私立大学や民間の養成課程に比べて自己負担を抑えやすいのが特長です。在学中に就職活動を行い、採用選考を経て航空会社へ入社します。さまざまな航空会社への道が開かれているのも魅力です。一方で、受験には年齢や学歴などの条件があり、入学試験の倍率も高めです。
出身構成(私立大学)8.6%
このルートは、大きく「大学」と「民間の養成施設」の2つに分かれます。
主に私立大学に設けられている、操縦教育に特化した学部・コースです。大学在学中に操縦士の資格を取得し、航空会社への就職を目指します。
近年では存在感を増しており、国土交通省の統計(令和5年1月1日時点)では、私立大学出身者の直近5ヵ年の年間平均採用数が約78人と、自社養成に次いで2番目の多さでした。
車でいう教習所のようなもので、自分のペースで訓練を進められるのが特長です。年齢の上限を設けていないところもあり、社会人になってから挑戦する人もいます。
訓練費用は基本的に自己負担で、高額になりやすい点は知っておきたいところです。一方で、学校や施設によって特色があり、年齢条件や海外のフライトスクールとの提携など、自分の条件や目標に合わせて選べるのはこのルートの利点です。航空会社への就職活動は別途行う必要があります。
出身構成 3.7%
防衛省で操縦士として勤務した後、民間航空会社へ転職するルートもあります。主要航空会社のパイロットのうち、防衛省出身者は3.7%を占めています。自衛隊で操縦士としての経験を積み、その経験を活かして民間航空会社へ進めることが大きな特徴です。ただし、防衛省から民間航空会社へ転職する人は、年に数名程度と限られます。
訓練にかかる費用は国が負担し、自衛官として給与を受け取りながら操縦訓練を受けられるため、費用面の負担なく、操縦士としての経験を積むことができます。一方で、まずは自衛官として任務に就くことが前提となり、民間へ転職する際には一部の資格や限定を新たに取得する必要があります。
パイロットの免許にはどんな種類がある?

日本の制度上の正式名称は「航空従事者技能証明」ですが、この記事では分かりやすく「資格」「免許」と表現します。
パイロット(操縦士)の資格は、航空法で4種類に区分されています。そして、資格ごとに「できること(業務範囲)」が航空法第28条で決められています。
自家用操縦士(PPL)
自分や同乗者を乗せて操縦するための基本的な資格です。報酬を受けて操縦することはできないので、趣味やレジャーとして空を飛びたい人が取得します。「自分で飛行機を操縦してみたい」という人だけでなく、プロを目指す人にとっても、訓練の大切なステップです。
事業用操縦士(CPL)
報酬を受けて航空機を操縦するための資格です。後ほどご紹介する計器飛行証明や型式限定とあわせて取得すれば、旅客機の副操縦士として働けます。測量や撮影、薬剤散布といった航空機使用事業の操縦士や、小型機の機長として遊覧飛行などを行う道も開けます。
准定期運送用操縦士(MPL)
航空会社で2人のパイロットが協力して運航すること(複数乗員での運航)を前提とした、副操縦士のための資格です。エアラインの運航乗務員として必要な知識・技術を、航空会社での運航を想定した訓練体系の中で身につけていきます。
定期運送用操縦士(ATPL)
旅客機の機長に必要な、操縦士資格の最上位です。路線を定めて定期に旅客を運ぶ飛行機(国際線・国内線)の機長を務めるには、この資格が求められます。
各資格をどんな順番で取っていくのか、訓練の内容や入社後の訓練まで、海外の制度にも触れながら詳しく知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。
免許だけでは飛べない?パイロットに必要な「証明」と「限定」
航空法では、航空機に乗り組んで運航する人は、技能証明(免許)に加えて、航空身体検査証明を取得することと定められています(第28条)。さらに、操縦する航空機に応じた「限定」や、飛び方に応じた証明、そして技量を保ち続けるための審査や飛行経験も求められます。
✓ 技能証明(免許)✓ 航空身体検査証明✓ 型式などの限定✓ 計器飛行証明✓ 航空英語能力証明✓ 最近の飛行経験✓ 特定操縦技能審査
航空身体検査証明
視力や聴力、健康状態など、安全に操縦するために必要な身体的基準を満たしているかを確認する証明です(第31条)。エアラインのパイロットを目指す場合は、CPL・MPL・ATPLの資格に求められる「第一種」が必要になります。有効期間は資格や年齢、乗務の形態に応じて半年または1年で、期限ごとに更新します。資格を取った後も、健康管理を続けることが求められる仕事です。
計器飛行証明
飛行機は、いつも外の景色を見ながら飛べるわけではありません。雲の中や視界の悪い天候では、計器に表示される高度・速度・姿勢・進行方向などの情報だけを頼りに飛ぶ必要があります。そんな「計器だけで安全に飛ぶ」ための技術を証明するのが計器飛行証明で、計器飛行方式で飛ぶ場合に必要になります。エアラインの運航には欠かせない証明です。
航空英語能力証明
国際航空運送を行う操縦士には、航空無線などで使う英語の能力を証明することが求められます。ICAOの基準を受け、日本でも2006年(平成18年)4月1日に制度が導入されました。
航空機の種類・等級・型式の限定
「種類」は、飛行機、回転翼航空機(ヘリコプター)、滑空機など、航空機そのものの種類を指します。
「等級」は、飛行機の中でも、陸上機か水上機か、単発機か多発機か、またエンジンがピストンエンジンかタービンエンジンか、といった違いです。
一方、大型の旅客機などでは、「等級」に加えて「型式」の限定も必要になります。簡単にいうと「特定の機種を操縦するための資格」というイメージです。
等級:陸上多発タービン機
型式:B737、B777など
最近の飛行経験
資格を持っていても、長いあいだ飛んでいなければ、すぐに操縦することはできません。航空運送事業の航空機の運航に従事する場合には、直近の一定期間内に必要な飛行経験を積んでいること(最近の飛行経験)が求められます。計器飛行や夜間飛行、操縦教育を行う場合には、別途それぞれの要件を満たす必要があります。
特定操縦技能審査
技能証明は一度取得すれば、更新する必要はありません。
ただし、実際に操縦を行うには、操縦する日からさかのぼって2年以内に「特定操縦技能審査」に合格している必要があります(航空法第71条の3)。
この審査では、国土交通大臣の認定を受けた操縦技能審査員が、操縦操作の能力や、非常時の操作に関する知識、航空法規などに関する知識を確認します。
エアラインのパイロットの場合は、航空会社が運航規程に基づいて行う技能審査に合格することで、特定操縦技能審査に合格したものとみなされます。
操縦教育証明
将来、パイロットを育てる教官として操縦教育を行う場合には、操縦教育証明という資格もあります。エアラインパイロットになる全員が取得するものではなく、教官として教育にあたる場合などに関係する資格です。
日本のパイロット免許は海外でも使える?

ここは誤解されやすいポイントです。
日本の資格を持つパイロットが日本の航空会社で乗務し、国際線を運航することはできます。 航空は国境を越えるため、各国の制度はICAO(国際民間航空機関)の国際的な基準をもとに整えられているからです。
ただし、日本の免許のまま、そのまま海外でパイロットとして働けるわけではありません。 たとえば外国の航空会社で乗務する場合は、その国の免許(または承認)が必要になります。
とはいえ、道が閉ざされているわけではありません。ICAOの基準があるおかげで、一定の資格や経験を持つパイロットは、条件を満たせば外国のライセンスへの書き換え・承認を受けて、海外で働く可能性が開けます。 追加の学科試験や実技試験、身体検査、英語能力、飛行経験、型式限定などの条件は国ごとに異なり、具体的な内容は各国の航空当局が定めています。
パイロットとしてのキャリア

資格を取っても、勉強は終わりません。
パイロットになった後も、日々の運航に関わる知識や技術の更新に加え、定期的な訓練や審査など、常に学びは続いていきます。機長を目指す場合には、さらに訓練や審査を重ねていきます。
決して簡単な仕事ではありません。ですが、経験を積むことで、少しずつキャリアの選択肢も広がっていきます。
機長への昇格、教官・審査員としての後輩育成、別の機種への移行、運航を支える業務、条件を満たせば海外の航空会社に挑戦する道など、パイロットとして経験を積んだ先には、さまざまな道があります。
資格を取ることがゴールではありません。そこから経験を積み重ねることで、その先の自分に繋がっていきます。
それも、パイロットという仕事の魅力の一つかもしれません。
パイロットを取り巻く環境も変化している|2030年問題は追い風になる?
実は今、航空業界は大きな転換期を迎えています。いわゆる「2030年問題」です。国土交通省の資料では、主要航空会社のパイロットの年齢構成は50歳前後に偏っていて、2030年頃から大量退職の時代に入ると見込まれています。
訪日外国人旅行者数の政府目標(2030年に6,000万人)などを前提にした国交省の予測では、2030年に国内で新たに必要となるパイロットは年間約400〜700人とされています。こうした背景から、航空大学校の定員も2018年度に72人から108人へ拡大されました。
もちろん、これは「パイロットになりやすくなった」という意味ではありません。高い安全性が求められる仕事なので、資格取得後も訓練と審査は続きますし、採用の人数は景気や航空需要によっても変わります。上記の人数もあくまで予測です。
それでも、これからパイロットを目指す人にとって、チャンスが広がる可能性のある時代であることは間違いありません。
まとめ|エアラインパイロットになるまで
エアラインパイロットへの道のりは、大きく以下の流れです。
その先は、経験を重ねてキャリアを広げる道や、海外へ挑戦する道など、人それぞれです。

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